2025年05月の記事一覧｜名古屋市千種区の不動産売却・買取はSTF PropTech（エスティーエフプロップテック） ｜STF PropTech

名古屋市で導入が計画されている新しい路面公共交通システム「SRT（スマートロードウェイトランジット）」について、その概要から地価への影響、そして名古屋市民の皆さんから聞こえてきそうな疑問点まで、詳しく見ていきましょう。

まずは、名古屋市が公開しているSRTのプロモーション動画をご覧ください。SRTが走る未来の名古屋の姿をイメージできるかもしれません。

【SRTとは？】新しいバス、それだけではない？

名古屋市が導入を進めているSRT（Smart Roadway Transit）は、複数車両が連なった連節バスが、一部専用レーンを走行することで、円滑な移動の実現を目指すものです。 地下鉄建設と比較して費用を抑制しつつ、従来の路線バスよりも迅速かつ大量の乗客輸送を可能にすることを目的としています。2019年1月にこの構想が発表された背景には、数年後に予定されているリニア中央新幹線の開業があります。遠方からの来訪者に対し、市内の移動利便性を高め、都市の魅力を向上させることが狙いです。これにより、都心部の「回遊性」、つまり各所を巡る移動の活発化を促し、街全体の賑わいに繋げることを目指しています。

このSRT計画の特徴は、単に新しい交通機関を導入するだけでなく、駅周辺の環境整備や歩行者にとって快適な空間創出といった「まちづくり」と一体的に推進されている点にあります。これにより、人の流れを変化させ、新たなビジネス機会の創出や、ひいては名古屋経済への好影響も期待されています。この新しい交通システムが、名古屋の日常風景や都市機能にどのような変化をもたらすのか、その可能性と現実的な課題について検討していきましょう。

【SRTは地価を押し上げる？】沿線への影響

新しい交通インフラの導入が不動産価値に影響を与えることはよくありますが、SRTの場合はどうでしょうか。実際、名古屋市中心部、例えばSRTが走行予定の中区大須 (なかくおおす) では、2024年の公示地価が前年比で+6.89%と、顕著な上昇を示しています。 しかし、この上昇をSRT計画のみに起因すると判断するには、現時点では十分なデータがありません。近年の地価上昇は、コロナ禍からの経済活動の回復や、栄 (さかえ) 地区における大規模再開発プロジェクトなど、他の要因によるところが大きいと専門家は分析しています。

では、SRTは地価に全く無関係なのでしょうか。そうとも言い切れません。「交通利便性が向上するかもしれない」という期待感が、不動産需要を間接的に押し上げている可能性は否定できません。特に、SRTが走行予定の伏見 (ふしみ) や大須エリアでは、このような期待感が地価を下支えしている側面も考えられます。他の都市の事例を参照してみましょう。例えば、東京のベイエリアを走る東京BRT（バス高速輸送システム）の沿線では、商業地の地価が+48.8%（2025年公示地価最高地点）という大幅な上昇を記録した地点があります。（この点について東京都は、「BRT整備やシェアサイクルなど交通手段の充実が注目度を高めた」ことが一因と分析しており、オリンピック関連開発との相乗効果もあったとされています。）また、次世代型路面電車（LRT）を導入した宇都宮市では、LRT芳賀・宇都宮線沿線の栃木県芳賀町にある工業団地近隣の土地（芳賀町大字下高根沢字海道東）の公示地価が、2015年の1万6000円/平方メートルから2023年には1万6800円/平方メートルへと約5%上昇しており、LRT開業による効果と考えられています。 これらの事例は、SRTのような新しい交通システムが、人々の期待を集め、結果として土地の価値を引き上げる可能性を示唆しています。

SRTが名古屋の地価にどの程度の影響を与えるか、最終的な判断は時期尚早です。しかし、交通利便性の向上は、不動産価値にとってプラス要因であることは間違いありません。特に伏見のような、SRTによって人の流れが大きく変化する可能性のあるエリアでは、新規出店やオフィス開設が進み、それが地価に反映されることも考えられます。SRTが実際に運行を開始し、利用者の増加や街の活性化が具体的に確認できるようになれば、その影響はより明確になるでしょう。

【SRT計画の進捗状況は？】

SRT計画は、着実に実現に向けて進んでいます。名古屋市の発表によると、SRTの東西ルート、つまり名古屋駅 (なごやえき) から栄 (さかえ) までの区間は、2025年度の後半に運行を開始することを目標としています。現時点で、計画に大きな遅延が生じているという情報はなく、順調に進捗していると見られます。この目標達成に向け、様々な準備が進められています。

具体的な走行ルートは、名古屋駅の桜通口 (さくらどおりぐち) やミッドランドスクエア前から出発し、広小路通 (ひろこうじどおり) を東進します。途中には、柳橋 (やなぎばし) 、納屋橋 (なやばし) 、広小路本町 (ひろこうじほんまち) といった、これまで地下鉄の駅がなくアクセスがやや不便だったエリアにも停留所が設置されます。合計7カ所の停留所が計画されており、栄が終点となります。車両については、「アーバンゴールド」をコンセプトに、金色をアクセントとした全長18メートル以上にも及ぶ連節バスが採用される予定です。従来の路線バスとは異なる外観であり、都市の新たなシンボルとしての役割も期待されます。

運行は、公募により選定された名鉄バス株式会社が担当します。2023年10月には名古屋市と基本協定を締結し、現在は運転手の確保・訓練や詳細なダイヤの策定などが行われています。インフラ整備も進捗しており、2024年度からは、バスの円滑な走行を目的とした道路改良や停留所設置工事が本格的に開始されています。広小路通の一部区間では、バス専用レーンの設置も予定されています。さらに、運行情報提供や乗降の利便性向上のため、ICT（情報通信技術）の活用も計画されています。例えば、運行間隔は約10分程度を予定しており、訪日外国人にも配慮した多言語対応のデジタル案内表示やウェブアプリケーションの導入も検討されています。

【週3日×1日12便の現実】と市民の懸念

しかし、ここにきてSRTの運行計画に関して、注意すべき情報が出てきました。当初の運行規模として、週3日程度、1日に12便（6往復）程度から開始される可能性が示唆されているのです。（「2025年5月10日に開催された名古屋市住宅都市局交通事業推進課・公益財団法人名古屋まぢづくり公社名古屋都市センター主催『まちづくり講演会「名古屋市の都心風景が、変わる。-SRTとまちづくり-」における発表内容（現地で聴取）」 のように書くと、情報の一次性と出典の透明性が両立できます。この情報は、日常的な交通手段としてのSRTに期待を寄せていた市民にとって、少なからず懸念を抱かせる内容と言えるでしょう。

まず、利便性の観点から考察します。週3日、1日数便という運行頻度では、通勤や通学といった定常的な移動手段として選択肢に入りにくいのが実情です。これは、特定のイベント開催時に運行される臨時輸送や、社会実験的な位置づけに近いと言わざるを得ません。「名駅と栄の間の回遊性向上」というSRT計画の主要な目的と、この限定的な運行形態との間には、乖離が見られます。このままでは、新しい交通システムが、多くの市民にとって日常的に活用できるものとはなり得ない可能性があります。

次に、費用対効果についても疑問が生じます。仮に1便あたりの乗車定員を40人（連節バスの実際の定員はこれより多いですが、保守的に試算）とし、常に満席で運行されたとしても、1日あたりの最大輸送人員は480人です。週3日間の運行では、1,440人となります。一方で、SRTが補完する役割を期待される地下鉄東山線の名駅～栄間は、ラッシュ時には1時間あたり数万人規模の輸送実績があります。両者の輸送能力には、極めて大きな隔たりがあると言わざるを得ません。この状況では、SRTが東山線の混雑緩和に大きく寄与するとは考えにくいのが現状です。さらに、運行日が限定されることは、広告媒体としての価値低下にも繋がります。車体広告の露出機会が減少すれば、広告収入による運行コストの自立的な確保は一層困難になることが予想されます。