ザ・ランドマーク名古屋栄で栄は復権するのか?不動産価値は「面」で読む
ザ・ランドマーク名古屋栄の開業に伴い、栄の再開発や「栄の復権」に大きな注目が集まっています。
ここのところ、名古屋駅(名駅:めいえき)に話題を奪われがちだった栄ですが、中日ビルの建て替えや久屋大通公園周辺の変化、そしてHAERA(ハエラ)を擁する新しい大型複合施設の登場により、名古屋の中心商業地としての存在感を再び強めつつあるように見えます。
「ザ・ランドマーク名古屋栄」は、2026年3月31日に竣工し、同年6月11日に商業施設・シネマコンプレックスが開業しました。地下鉄東山線・名城線「栄」駅に直結する大型複合施設で、商業施設、シネマコンプレックス、オフィス、ホテルなどで構成され、栄交差点周辺の新たなシンボルとなっています。
中でも、地下2階から地上4階に広がるラグジュアリーモール「HAERA」は、エリアの新しい顔として話題を呼んでいます。
しかし、不動産を評価する視点においては、「新しい大型施設ができたから、周辺の不動産価値も一律に上がる」と単純に考えるのは少し注意が必要です。
大切なのは、栄という街で人がどのように動き、どの通りに広がり、どのような空間に立ち寄るのかを捉えることです。
名古屋都市センターの研究では、パーソントリップ調査をもとに、名古屋都心部の来街者行動が分析されています。パーソントリップ調査とは、人の移動を「どこからどこへ」「何の目的で」「どの時間帯に」行ったかと結びつけて把握する調査です。
この調査を見ると、栄の不動産価値を考えるうえで欠かせない視点が見えてきます。
それは、栄はひとつの施設だけで完結する街ではなく、大津通や久屋大通周辺を軸に、人の動きが「面」で広がる街であるということです。
パーソントリップ調査について
本記事で参照している「第6回中京都市圏パーソントリップ調査」は、令和4年(2022年)10月〜11月の平日に実施されたものです。そのため、2026年6月に開業したHAERAやザ・ランドマーク名古屋栄による人流の直接的な変化は、この調査結果には含まれていません。
栄の「復権」は、ビル単体ではなく街の使われ方で見る
ザ・ランドマーク名古屋栄の誕生は、栄にとって大きな好材料です。
ただし、復権の行方を左右するのは、施設の「規模」や「高さ」だけではありません。
本当に見たいのは、その施設が、周辺の通り、既存の商業施設、公園、地下街、歩行者空間とどのように連動していくかです。
名古屋都市センターの研究では、名駅エリアと栄エリアにおける「自由目的」の移動傾向が比較されています。自由目的とは、通勤や業務以外の買物、飲食、娯楽、文化活動、私用などを含む移動です。
- 名駅エリア:JR名古屋高島屋やミッドランドスクエアなど、駅周辺の大型施設に人の動きが集中しやすい傾向があります。
- 栄エリア:松坂屋や三越などの大型商業施設に人が集まるだけでなく、12時から17時台にかけて、大津通や久屋大通周辺を中心とした「面的」な人の広がりが確認されています。
つまり、名駅が「駅周辺にスポット的に人が集まる街」であるのに対し、栄は「通りや周辺施設を回遊しながら歩く街」という性格を持っています。
ここで重要なのは、どちらのエリアが優れているかという比較ではありません。
栄の不動産を考えるうえでは、「面で使われる街」という個性を前提に置くことが大切です。
ザ・ランドマーク名古屋栄やHAERAの開業も、単体のニュースではなく、「栄の面的な人流をどう活性化させるか」という文脈で捉える必要があります。
HAERAは、久屋大通、広小路通、錦通、大津通の4つの大通りに囲まれ、地上の歩行者の回遊性や地下ネットワークの向上に貢献するとされています。
ただし、前述の通り、今回参照しているパーソントリップ調査はHAERA開業前の調査です。そのため、この調査だけで「HAERAによって栄の人流がどう変わったか」までは分かりません。
むしろ注目したいのは、開業前から栄には「面で人が動く街」としての性格があり、HAERAの登場によって、大津通・久屋大通・広小路通周辺の回遊性が今後どう変化していくのか、という点です。
今後の新たな人流データや次回以降の調査で、栄の街の広がりがどのように更新されるのかは、ぜひ見ていきたいポイントです。
栄の不動産は「点」ではなく「面」で見る
栄の不動産を評価する際、築年数、面積、駅距離、賃料、修繕費などのスペックが重要なのは言うまでもありません。
しかし、歩行者の回遊が活発な栄エリアでは、建物を以下の「3つの層」に分けて整理すると、その価値が見えやすくなります。
| 見る層 | 確認すること | 不動産視点での意味 |
|---|---|---|
| ① 回遊動線 | 大津通、久屋大通、広小路通、地下街などの人の流れに接しているか | 人が自然に流れてくるルート上にあるか |
| ② 通りとの接点 | 建物の低層部、入口、店舗、ショーウィンドウが通りに開いているか | 歩行者が思わず立ち寄りたくなる工夫があるか |
| ③ 周辺施設との関係 | 新施設(HAERAなど)や既存商業施設、公園、飲食店と補完し合える位置か | 目的地へ向かう前後で立ち寄られる動線にあるか |
ここでポイントとなるのが、歩行者の目線に入る「低層部」のつくりです。
ここでいう低層部とは、建物の1階や2階、入口、店舗、ショーウィンドウ、広場、ベンチ、植栽など、歩いている人の目に入りやすい部分を指します。
いくら上層階が立派でも、通りに面した1階部分が閉鎖的だと、歩く人にとって立ち寄る理由が生まれません。逆に、店内の様子が見えたり、小さな広場やベンチがあったり、にぎわいが通りににじみ出ている建物は、街の回遊動線に自然と溶け込みます。
以前のコラムで紹介した中日ビルや「Nagoまちテラス」の取り組みも、まさにこの「通りと建物の接点」を意識した事例です。
関連記事 ウォーカブルな都市空間とは?中日ビルとNagoまちテラスから学ぶ 通りと建物の接点、低層部の見え方、歩行者目線の街づくりを不動産視点で整理しています。面で人が動く栄において、建物の価値は「敷地内だけ」では完結しません。
通りに対してどう開いているか。
周辺の人の流れをどう受け止めているか。
近くの施設と組み合わさって、立ち寄る理由を生めるか。
こうした視点が、栄の不動産を見るうえで重要になります。
PARCO南館の営業終了も、栄を「面」で見る例になる
以前のコラムでは、名古屋PARCO南館の営業終了を不動産視点で読み解きました。
関連記事 名古屋PARCO南館の営業終了は「街の衰退」ではない? PARCO南館の営業終了を、栄エリア全体の商業機能の組み替えとして読み解いています。そのときにも整理したように、名古屋PARCO南館の営業終了を、単純な「栄からの撤退」や「栄の衰退」と見るのは少し早計です。
名古屋PARCOは南館の営業を終了する一方で、西館・東館・PARCO midiの営業は継続します。
さらに、J.フロントリテイリンググループ全体で見れば、2026年6月に「HAERA」を開業し、2027年春には「松坂屋名古屋店南館」の一部をパルコ運営の新商業施設へと大規模リニューアルする方針を示しています。
つまりこれは、老朽化した単一ビルへの追加投資を抑え、栄エリア全体における商業機能の役割を組み替え、人流をより効果的に再配置する動きと捉える方が、実態に近いと考えられます。
一つの施設の開業や閉鎖に一喜一憂するのではなく、周辺エリア全体で「人の流れがどう動き直すか」を見極めることが、不動産視点では重要です。
景観も、栄の「面の価値」をつくる要素になる
栄の不動産を長期的に捉えるうえで、街並みや景観との関係も無視できません。
特に大津通や広小路通のような主要通りでは、建物が街に与える印象が、エリア全体のブランド力に関わります。
名古屋市では、都市景観形成地区内における積極的な景観まちづくりの取り組みを認定する「Nagoyaまちなか景観認定制度(Nagoまち景観)」を創設し、令和8年(2026年)9月1日からの運用開始を予定しています。
あわせて、広小路・大津通都市景観形成地区では、変更された景観形成基準も同月から運用が始まる予定です。
これにより、建築物や工作物、広告物の新設・改築時には、新たな基準への適合が求められる場面が出てきます。
これは、栄のような中心商業地において、建物を「自社敷地の中だけ」で考えにくくなっていることを示しています。
- 通りに対して建物がどう調和しているか
- 低層部が歩行者に圧迫感を与えていないか
- 照明や植栽、広告物が通りを魅力的に見せているか
これらは、地価に直接反映される数値ではありません。
しかし、中長期的に「歩いて楽しい街」「滞在したくなる街」をつくるうえでは、重要な要素になります。結果として、エリアの印象や回遊性を支え、不動産の見え方にも影響していくと考えられます。
不動産オーナーは「再開発があるか」だけでなく「面の中の位置」を見る
再開発や新施設の開業は、栄エリアにとって追い風になり得ます。
しかし、「再開発エリアだから安心」と一概に決めつけるのは避けるべきです。
同じ栄エリア内であっても、所有する不動産がどの通りに面しているか、どのような人流の恩恵を受けられるかによって、取るべき対策は異なります。
今後、所有不動産の見直しや将来設計を立てる際は、以下のチェックリストを参考に整理してみてください。
| 確認したい視点 | 具体的なチェックポイント |
|---|---|
| 回遊動線との接点 | 大津通・久屋大通・広小路通、地下街や主要商業施設からの流れに接しているか |
| 低層部の設計 | 入口や店舗、外構(植栽や広場)が通りに対して開かれた印象を与えているか |
| 景観・街並みとの調和 | 外観、広告物、照明、植栽などが周辺の街並みや新基準に適合しているか |
| 周辺施設との連動性 | HAERA、松坂屋、PARCO、中日ビル、久屋大通公園などとの相互往来が期待できるか |
| 建物の個別コンディション | 設備の老朽化、今後の修繕費、耐震性、空室リスクなどが把握できているか |
| 出口(活用方法)の選択 | 「保有」「修繕」「賃貸」「建て替え」「売却」のうち、最も現実的な選択肢はどれか |
不動産の最適解は、街のニュースだけで決まるものではありません。
最終的には、土地の形状、接道、築年数、修繕費、税務、相続予定などの個別要因を総合して判断する必要があります。
しかし、栄のように街が大きく変わりつつあるエリアでは、個別要因に「街の面の中でどの位置にあるか」という視点を重ね合わせることが大切です。
まとめ
要点:ザ・ランドマーク名古屋栄やHAERAの開業は、栄エリアのこれからを考えるうえで大きな出来事です。ただし、不動産の視点では、新施設の存在そのものだけでなく、それによって栄特有の「面で動く人流」がどう変化し、新たな回遊ルートがどう生まれるかに注目することが大切です。
今回参照したパーソントリップ調査は、HAERA開業前の令和4年(2022年)に行われたものです。そのため、HAERAによって人流がどう変わったかまでは、この調査からは分かりません。
一方で、開業前の時点でも、栄には大津通や久屋大通周辺を軸に人の動きが面で広がる性格が見られました。
今後、HAERAやザ・ランドマーク名古屋栄によって、その広がりがどう強まるのか。あるいは、新しい動線がどう生まれるのか。次回以降の調査や人流データで確認できることを楽しみにしたいところです。
ご自身が所有されている不動産が、変化する栄の「面」の中でどのような位置づけにあるのか、この機会に見つめ直してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
Q. HAERAの開業で、栄の人流が増えたと言えますか?
A. 本記事で参照しているパーソントリップ調査は令和4年(2022年)の調査であり、HAERA開業前のデータです。そのため、この調査だけで開業後の人流変化までは判断できません。今後の人流データや次回以降の調査で確認したい点です。
Q. 栄の不動産価値は、再開発で必ず上がりますか?
A. 必ず上がるとは言えません。再開発は前向きな材料になり得ますが、個別の不動産では立地、接道、建物状態、修繕費、テナント需要、税務、相続予定などを総合して判断する必要があります。
Q. 栄周辺の不動産を見るとき、まず何を確認すべきですか?
A. 駅距離や築年数だけでなく、大津通・久屋大通・広小路通などの回遊動線に接しているか、建物の低層部が通りに開いているか、周辺施設との行き来が期待できるかを確認すると整理しやすくなります。
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参考資料
- 名古屋都市センター 調査課 髙松弘貴「パーソントリップ調査を活用した生活行動の特性の把握に関する研究」
- 三菱地所株式会社「ザ・ランドマーク名古屋栄」概要
- HAERA公式サイト
- J.フロント リテイリング株式会社「HAERA」グランドオープン資料
- 名古屋PARCO「名古屋PARCO南館の営業終了について」
- 名古屋市「Nagoyaまちなか景観認定制度(Nagoまち景観)」
- 名古屋市「広小路・大津通都市景観形成地区」
- STF PropTech「名古屋PARCO南館の営業終了は『街の衰退』ではない? 不動産視点で読み解く栄のこれから」
- STF PropTech「ウォーカブルな都市空間とは?中日ビルとNagoまちテラスから学ぶ」
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