カテゴリ:不動産お役立ちコラム / 更新日付:2025/04/08 14:44 / 投稿日付:2025/04/08 14:44
はじめに
名古屋市内では、名古屋駅周辺、栄、金山といった主要エリアで大規模な再開発計画が次々と発表され、街の未来に期待が寄せられています。しかし、その一方で、全国的に「建設費高騰」という大きな問題が影を落としています。この記事では、名古屋の再開発ラッシュの裏で何が起きているのか、それがご所有の不動産価値や「不動産の売り時」にどう影響する可能性があるのかを、具体的な事例を交えながら優しく解説します。
名古屋を彩る再開発ラッシュと高まる期待感
現在の名古屋市は、まさに変革の時を迎えています。リニア中央新幹線の開業を見据えた「名古屋駅地区再開発計画」では、名鉄名古屋駅を含むエリアが大きく生まれ変わろうとしています。また、金山駅周辺でも「アスナル金山エリア再整備事業」が進められ、新たな賑わいの創出が期待されています。さらに、栄エリアでは「ザ・ランドマーク名古屋栄」が竣工し、オフィスや商業施設が集まる新たな拠点として注目を集めています。
こうした活発な動きを背景に、不動産オーナー様の中には「このまま持っていれば、不動産の価値はさらに上がるだろう」「再開発計画が進めば、周辺エリアも恩恵を受けるはずだ」といった期待感をお持ちの方が多いのではないでしょうか。たしかに、再開発は街の魅力を高め、不動産価値を押し上げる大きな要因となり得ます。しかし、その一方で、見過ごせないリスクも顕在化してきているのです。
栄の象徴に起きた衝撃:名古屋三越栄店ビル建て替え計画「白紙」
そのリスクを象徴する出来事が、2023年7月に名古屋の中心部・栄で起こりました。長年親しまれてきた名古屋三越栄店が入居するビルの大規模な建て替え計画が、事実上「白紙」に戻されたのです。当初の計画では、2029年の完成を目指し、高さ180メートルにも及ぶ高層複合商業ビル(百貨店、高級ホテル、オフィス)を建設するという、まさに栄の未来を象徴するような壮大なプロジェクトでした。
しかし、計画を運営する企業は「建築費の高騰」と「オフィス需要の不透明さ」を理由に、計画の凍結を発表しました(出典: 朝日新聞 2023年7月6日)。周辺では他の再開発ビル(中部日本ビルディングなど)の建設も進んでおり、先行きの不透明感が増す中で、事業の採算性を確保することが難しいと判断されたのです。この出来事は、活気あふれる名古屋の再開発ムードに冷や水を浴びせるとともに、建設費高騰という問題が他人事ではないことを強く示唆しています。
全国を覆う「建設費高騰」の暗雲 – その背景とは?
では、なぜこれほどまでに建設費が高騰しているのでしょうか? 「建設費」とは、文字通り建物を建てるためにかかる費用全体のことで、主に材料費と人件費から成り立っています。現在、これらの費用が複合的な要因によって大きく上昇しているのです。
- 要因1:資材価格の上昇
- 鉄骨やセメント、木材といった建設に不可欠な資材の価格が世界的に高騰しています。ロシアのウクライナ侵攻などの国際情勢の不安定化による資源価格の上昇や、円安による輸入コストの増加、原油価格高騰に伴う輸送コストの上昇などが主な原因です。
- 要因2:深刻な人手不足
- 建設業界では、長年にわたり職人の高齢化と若手の担い手不足が深刻な問題となっています。現場で働く人が減れば、人件費はおのずと上昇します。
- 要因3:働き方改革の影響
- 労働環境の改善は急務ですが、2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制は、さらなる人件費の上昇や、工期の長期化につながる側面もあります。限られた人数と時間で工事を進めなければならないため、結果的にコスト増を招いてしまうのです。
これらの要因が複雑に絡み合い、「建設費高騰」という深刻な状況を生み出しています。建設会社にとっては利益を圧迫する大きな要因となり、採算の合わない工事の受注に慎重にならざるを得なくなっています。
他人事ではない?「再開発計画」の遅延・見直しは全国で常態化
建設費高騰の影響は、全国各地の再開発計画に暗い影を落としています。日本経済新聞が2025年3月25日に報じた調査によると、驚くべきことに、2024年11月時点で進行中だった全国の市街地再開発事業のうち、約8割もの事業で当初の計画からの「完了時期の延期」や「事業費の増加」が発生していることが明らかになりました。
計画が見直された事業では、平均して工事期間が2.7年も延び、事業費は当初計画より約2割も増加しているというのです。これは、再開発計画がいかに外部環境の変化に弱いかを示しています。さらに衝撃的な事例として、東京都中野区で計画されていた「中野サンプラザ」跡地の再開発プロジェクトが、建設費が当初想定の2倍近くまで膨れ上がったことなどを理由に、事実上白紙撤回に追い込まれたことも報じられています(出典: 日本経済新聞 2025年3月11日)。
このような状況を見ると、たとえ現時点で計画が順調に進んでいるように見えても、将来にわたって安泰とは限らないことがお分かりいただけるでしょう。名古屋の再開発計画も、決して例外ではないのです。
「再開発=価値上昇」ではない? 不動産の「売り時」を考える
ここまで見てきたように、建設費高騰は、再開発計画の遅延、規模縮小、そして最悪の場合には計画中止というリスクをはらんでいます。名古屋市内の活発な再開発ムードに水を差すようで心苦しいのですが、「再開発があるから不動産価値は上がり続けるはずだ」と単純に期待するのは、少し危険かもしれません。
そもそも不動産の価値は、再開発計画という一つの要因だけで決まるものではありません。
- 金利の動向: 住宅ローン金利などが変動すれば、購入者の負担が変わります。
- 景気の変動: 景気が悪化すれば、不動産を買う余裕のある人は減るでしょう。
- 税制の変更: 不動産に関する税金が変われば、所有や売却の判断に影響します。
- 需要と供給のバランス: そのエリアで「買いたい人」と「売りたい物件」のバランスが最も重要です。
これらの様々な要因が複雑に絡み合って、不動産の価値は常に変動しています。建設費高騰という逆風が吹く中で、「ただ待っていれば必ず価値が上がる」という考えは、もはや通用しなくなりつつあるのかもしれません。
むしろ、楽観的なムードに流されることなく、現在の市況を冷静に見極め、ご自身の不動産の「不動産の売り時」はいつなのか、一度立ち止まって検討してみることが、将来のリスクを回避するためには重要になってくるのではないでしょうか。
まとめ
名古屋市内では、魅力的な再開発計画が目白押しであり、街の将来に大きな期待が寄せられています。しかしその一方で、全国的な建設費高騰と人手不足という深刻な問題が、計画の実現に影を落としていることも事実です。名古屋三越栄店の建て替え計画白紙という現実は、そのリスクが決して他人事ではないことを示しています。
「再開発=不動産価値の上昇」という期待に固執するのではなく、現在の不動産市況やリスク要因について正確な情報を収集し、冷静に判断することが、これからの時代には不可欠です。ご自身の所有する大切な不動産の将来について、一度じっくりと考えてみる良い機会かもしれません。
FAQ(よくある質問)
Q1: 建設費の高騰はいつまで続くと考えられますか?
A1: 建設費高騰の要因である資材価格の上昇や人手不足は、国際情勢や国内の労働市場構造に根差しており、残念ながら短期的に解消される見通しは立てにくい状況です。専門家の間でも意見は分かれますが、少なくとも数年間はこの傾向が続く可能性があると考えるのが現実的でしょう。最新の経済ニュースや建設業界の動向に注意を払うことが大切です。
Q2: 再開発計画が遅れたり中止になったりした場合、周辺の不動産価値はどうなりますか?
A2: 一概には言えませんが、一般的にはマイナスの影響が出る可能性があります。再開発への期待感が剥落し、予定されていたインフラ整備や商業施設の開業が実現しなければ、エリアの魅力向上につながらず、価値上昇が見込めなくなる、あるいは下落するリスクも考えられます。ただし、影響の度合いは、その計画の規模やエリアの元々のポテンシャルによって大きく異なります。
Q3: 不動産の「売り時」を見極めるには、どうすればよいですか?
A3: 「不動産の売り時」に絶対的な正解はありませんが、いくつかの判断材料があります。まず、ご自身のライフプラン(住み替え、相続、資金需要など)と照らし合わせることが基本です。その上で、現在の不動産市況(周辺の売買事例、価格推移)、金利動向、税制などを考慮します。再開発計画の進捗状況や建設費高騰のリスクも重要な判断材料となります。信頼できる不動産の専門家に相談し、客観的なアドバイスをもらうことも有効な方法です。
参考資料
朝日新聞「名古屋三越栄店ビル、建て替え計画を白紙に 建築費高騰など受け」(2023年7月6日)
https://www.asahi.com/articles/ASR765V5FR76OIPE00Z.html
- 日本経済新聞「都市再開発、8割で遅れや費用増 後楽園やさいたま」(2025年3月25日)
- 日本経済新聞「中野サンプラザ再開発頓挫 野村不動産、工費高騰が直撃」(2025年3月11日)
- 日本経済新聞「誰も引き受けてくれない 山口県で見えた再開発の新課題」(2025年3月29日)
- 名古屋鉄道株式会社「名古屋駅地区再開発計画について」(2025年3月24日)
- 名古屋市「アスナル金山エリア再整備事業について」(市政情報)
https://www.city.nagoya.jp/jutakutoshi/page/0000179733.html - 三菱地所株式会社「ザ・ランドマーク名古屋栄/世界と人とまちをつむぐ価値創造拠点」
https://office.mec.co.jp/pickup/project_nishiki3_25
名古屋の不動産売却・将来設計、専門家にご相談ください
再開発への期待と、建設費高騰などのリスク。変化の激しい時代だからこそ、ご所有不動産の現状と将来について、専門家の視点を取り入れてみませんか?
私たちSTF PropTechは、名古屋市千種区・昭和区・瑞穂区・名東区を中心に、不動産の売却、相続、空き家対策など、幅広いご相談に対応しています。税理士やFPなど各分野の専門家が連携し、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適なプランをご提案いたします。「今の価値を知りたい」「売却すべきか迷っている」「相続したけどどうしよう」など、どんなことでもお気軽にご相談ください。無料査定も承っております。
監修者情報

- 税理士(名古屋税理士会), 行政書士(愛知県行政書士会), 宅地建物取引士(愛知県知事), AFP(日本FP協会)
- 趣味は、筋トレとマラソン。忙しくても週5回以上走り、週4回ジムに通うのが健康の秘訣。