2025年の名古屋の基準地価(きじゅんちか)が発表され、愛知県全体では5年連続の上昇となりました。しかし、その内訳を見ると「名駅や栄など都心部は伸びが鈍化し、代わりに千種区が突出して上昇する」という、少し不思議な現象が起きています。なぜ、このような差が生まれているのでしょうか。
これまで1,000件以上の不動産評価・相続相談実績のある税理士・宅地建物取引士の佐治英樹が、この記事で以下のポイントを初心者の方にも分かるように解説します。
- 2025年の名古屋地価の全体像
- なぜ千種区が上がり、都心は鈍化するのか
- 千種駅前・星が丘の再開発
- 「地価データ」と「開発ニュース」のタイムラグ
- これから上がる場所のチェックリスト
1. 2025年の名古屋の地価 — 「全体は上昇、でも都心は失速」
まず、発表された最新の地価データを見てみましょう。ポイントは「全体的には上がっているが、場所によって勢いが全く違う」という点です。
- 愛知県全体: 住宅地が+1.6%、商業地が+2.7%と、5年連続で上昇しました。
- 都心部(名駅・栄): 県内最高価格の地点(大名古屋ビルヂング)ですら、上昇率は+0.5%と、ほぼ横ばいに近い状態まで勢いが落ちています。
- 千種区: 一方で、千種駅前の商業地(千種区内山)は+10.8%という高い伸びを記録し、愛知県内でトップとなりました。
このように、名古屋の不動産市場は「都心一強」から、別のエリアが注目される新しい局面に入っていることが分かります。
2. なぜ千種区が上がり、都心が鈍化するのか?— 構造的な理由
「なぜ、わざわざ都心ではなく千種区なの?」という疑問の答えは、建設コストと賃料(ちんりょう)のバランスにあります。
- 都心部が抱える悩み: 現在、建設費や人件費が非常に高騰しています。しかし、名古屋の都心部では、そのコスト上昇分を吸収できるほどオフィスや店舗の賃料が上がっていません。そのため、不動産会社は「高いお金を払って土地を買っても、採算が合わないかもしれない」と、都心での取引に慎重になっています。
- 千種区が持つ強み: 一方で、千種駅や星が丘のようなエリアは、もともと交通の便が良く(駅力)、生活利便性も高い地域です。都心ほど地価が高騰していないため、開発の採算が合いやすいのです。加えて、「都心へのアクセス」と「良好な住環境」を両立できるため、住宅購入者からも投資家からも選ばれやすいのです。
つまり、「コスト高で少し手が出しにくくなった都心」を避け、より投資効率と生活価値のバランスが良い「準都心」や「郊外の拠点」にお金と人が流れているのが現在の構造です。
3. 未来の価値を動かす「千種駅前」と「星が丘」の2大計画
9月に発表された2つの計画は、いずれも人の流れを根底から変える力を持っています。
- (仮称)千種駅前計画: JR中央線と地下鉄東山線が交差する千種駅のすぐ近くに、高さ約190m、延べ床面積約10万㎡(名古屋城の天守閣の延べ床面積でいうと、およそ20個分に相当する規模)という巨大な複合ビルを建設する計画です。まだ初期段階ですが、実現すればオフィス・商業・住宅が一体となり、駅前の風景が一変します。(竣工(しゅんこう)は2030年前後が目安)
- 星が丘テラス増床計画: おしゃれな商業施設として人気の星が丘テラスが、さらに売り場を広げる計画です。2027年3月頃の稼働を目指しており、周辺の高級住宅地に住むファミリー層や、東山線沿線の利用者をさらに引きつけることになります。
共通点は、単なるビル建設ではなく「駅前×複数の用途」という、人が集まりやすい条件を強化する点にあります。
4. なぜ重要?基準地価と開発ニュースの「タイムラグ」
地価のニュースを見るとき、多くの方が陥りがちなのが「すべての情報が同じ時間軸にある」という誤解です。実は、ここには大きなタイムラグ(時間のズレ)が存在します。
- 基準地価: 今回公表された数字は2025年7月1日時点の価格です。公表は9月ですが、2か月以上前のスナップショット(静止画)です。
- 大規模開発ニュース: 千種エリアの将来を大きく変える「(仮称)千種駅前計画」と「星が丘テラス増床計画」は2025年9月に入ってから公表されました。
地価を正しく読むためには、実は「1つの数字」だけでは不十分です。なぜなら、地価には複数の制度があり、それぞれ評価の時点と公表のタイミングが異なるからです。
| 制度 | 評価時点 | 公表時期 |
|---|---|---|
| 地価公示 | 毎年1月1日 | 3月下旬ごろ |
| 都道府県地価調査 | 毎年7月1日 | 9月下旬ごろ |
| 相続税路線価 | 毎年1月1日 | 7月1日 |
| 固定資産税評価額 | 3年に1度(基準年度の1月1日) | 4月1日ごろ(縦覧期間) |
このように、同じ「地価」と言っても「いつの価格なのか(評価時点)」と「いつ世の中に出るのか(公表時期)」が制度ごとに違うため、情報には必ず時間的なズレが生じます。
次に見るべき指標は?
今回の基準地価(2025年7月1日時点)が公表された今、次に注目すべきは2026年3月下旬の「地価公示」です。ここで、千種区の伸びが一時的なものか定着しつつあるのかが見えてきます。さらに、相続税や固定資産税の評価に反映されるのは数か月〜数年先になるため、制度ごとの時間軸を意識して段階的にチェックしていくことが、不動産判断を誤らないコツです。
5. あなたの判断を助ける「これから上がる場所」のチェックリスト
ニュースを見て一喜一憂するのではなく、ご自身の目で「価値が下がりにくい場所」を見極めるための簡単なチェックリストです。以下の4つのポイントで、検討中のエリアを評価してみてください。
- 駅力は高いか?: 複数の路線が乗り入れている、主要駅へのアクセスがスムーズなど、交通の結節点(けっせつてん)になっていますか?
- 用途は複合的か?: 住む(住宅)、働く(オフィス)、楽しむ(商業)といった複数の機能がコンパクトにまとまっていますか?
- 開発の進捗はどの段階か?: 計画がまだ噂レベルなのか、行政手続き(配慮書など)に入っているのか、それとも既に着工しているのかで、価格への影響度合いは変わります。
- 賃料とのバランスは取れているか?: 周辺の家賃や店舗賃料は、地価に見合った水準を維持できていますか?
これらの項目を多く満たすエリアほど、景気の波に左右されにくい、不動産業界でいう「底堅い(そこがたい)」場所である可能性が高いと言えます。これは「需要が安定していて、価格が大きく下落しにくい」という意味で使われる言葉です。
まとめ:千種区の躍進から学ぶ「本当に選ばれる場所」の条件
2025年の名古屋の地価は、都心が鈍化し千種区が突出する二極化が鮮明になりました。背景には建設コスト高と、駅力・複合性を持つ準都心への需要シフトがあります。未来の価値は「人が集まる構造」を持つかどうかで決まります。
- 名古屋の地価は全体では上昇しているが、都心の勢いは鈍化し、千種区のような準都心が台頭している。
- 地価データ(7月1日時点)と開発ニュース(9月発表)にはタイムラグがあり、将来性はこれから織り込まれる。
- 価値が上がる場所の本質は、「駅力」「複合性」「開発計画」という、人が集まるための構造を持っているかどうか。
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参考資料
- 地価調査 愛知県の住宅地・商業地で5年連続上昇も上昇率縮小 | NHK | https://www3.nhk.or.jp/tokai-news/20250916/3000044047.html
- 基準地価4年連続で上昇 東京の伸び加速、海外の投資マネー流入 | 日本経済新聞 | https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA10D2C0Q5A910C2000000/
- 愛知県の基準地価、商業・住宅地とも伸び鈍化 郊外が値上がり主導 | 日本経済新聞 | https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD087LR0Y5A900C2000000/
- 第二星ヶ丘ビル・星が丘テラス(令和7年9月12日提出) 新設等届出書| 名古屋市 | https://www.city.nagoya.jp/keizai/page/0000190231.html
- 64.(仮称)千種駅前計画 | 名古屋市 | https://www.city.nagoya.jp/shisei/category/53-5-22-14-4-22-0-0-0-0.html
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本記事は、宅地建物取引士・税理士の監修のもと、公開資料・公式文書・報道等に基づき作成しています。個別の不動産・税務判断は状況により異なるため、最終的な意思決定は必ず専門家へご相談ください。
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